イメージ:第197回審査 佐藤直樹さんの審査

第197回審査 佐藤直樹さんの審査

デザイナー・佐藤直樹さんによる第197回ザ・チョイスの審査が10月28日に行われました。応募者330名、作品点数は約1100点。

時間通りに佐藤直樹さんが到着。佐藤さんは第157回(2005年)以来、2回目のチョイス審査です。デザイナー/アートディレクターとして審査をお願いしていますが、近年の佐藤さんは木炭ドローイングによる作品制作を行ったり、新聞の挿絵を手がけたりと、絵描きとしての側面もどんどん強くなっています。

「前に審査した時は、僕が何者か(応募する人にとって)わかりやすかったけど、今は何をする人かワケわからないんじゃないかな。自分でもよくわからなくなっている」

念のため、審査を始める前に改めて流れを説明。「前回の審査のことはよく覚えているけど、審査のペースなんかは全然参考になんないですね」

審査がスタートしました。佐藤さんはゆっくり丁寧に作品を見て、「これは残します」「これはナシ」とジャッジしていきます。最初の方は残す作品と残さない作品が半々でしたが、落とした方にもまだ若干気になるものがある様子です。

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10分ほど経過したでしょうか。全体の1割程度を見終えたところで、佐藤さんから意外な提案がありました。

「ここまでは残す・残さないで分けていますけど、“中間”っていうのを作ってもいいですか。基本的には落選なんだけど、もう残さなくていいものと、もしかしたら後で再度見直すかもしれないものを分けておきたいので」

ということで、ここからは「残す」「残さない」「中間」の3つに仕分けしていくことになりました。審査そのもののペースは変わらず、作品をじっくり見て判断を下します。割合でいうと、「残す」は全体の1割くらい。あとは落ちるものが5割、「中間」は4割程度でしょうか。残す作品がぐっと絞られて、その代わりに中間が多い印象です。2時間弱ほどですべての作品を見終えました。

ここでコーヒーブレイク。佐藤さんに、今回の作品を一通り見た感想から活動の近況まで、お話を伺います。

「(画風やタッチは)バラけているのかな。特定の傾向みたいなのはないですね。その一方で、過去にあった表現の形式を、自分にとって新しいからやってみるというのが、前回よりは明らかに増えていると思います」

かつては時代ごとに流行の表現スタイルがありましたが、ブームが終わると途端に時代遅れの「ダサい」表現になっていました。ところが時代が一巡したことで、ブームを直接知らない世代には再び新鮮なものとして受け入れられているとのこと。佐藤さんによれば、「時代の流行もなくなって、今この表現はダメだという判断はつかなくなっている」ということです。

話題はイラストレーションを取り巻く環境、他のジャンルとの関連性に移っていきます。

「イラストレーションの中で“傾向”を読んで、新しいものを打ち出していくのはもはや難しいと思う。メディアに元気があった頃に比べると、そこにお金をかけられなくて、それも勢いを削がれる原因になっている。どの分野も同じことが言えるけど、表現の様式はバラけているし、アートとか他の分野でやってきた人がイラストレーションに転向できる可能性は広がっています」

ライトノベルを中心に勢力を広げてきたコミック・アニメスタイルの表現にも言及がありました。そういう表現の応募がチョイスにほとんどないのを確認して、「やっぱり棲み分けがあるのかな」と一言。本誌No.200での都築潤さんとの対談をフラッシュバックしながら、話を続けます。

「今でもコミックイラストの需要は多いと思うけど、勢いとしてはだいぶ落ち着いていると感じます。あの対談の中で都築さんは、(浮世絵の時代のように)“いったんそこに表現形式が収束していく”と予測していたけど、そこまでは行かなかったですね。みんなそこまで様式に当てはめて考えてはいない、ということだと思います」

休憩後、二次審査へ。通常はもう1回、一人ずつ作品を広げて見ていくのですが、「中間」を設けたおかげで、「残した」作品はかなり絞られていました。そこで全て机に並べて見ていくことにしました。

「とりあえず、もうここで(入選・準入選)16人を仮に決めちゃいますね」と、何人かの作品をピックアップ。

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8人までは快調にピックアップが進みましたが、徐々に選ぶペースが落ち、「この辺からが難しい」と一言。この時点で外れる作品が出始めますが、「最終選考対象」として別によけておきます。ここで、「中間」にしておいた作品を見直していきます。一部をピックアップして机の上に残し、それ以外はこの時点で正式に「落選」となります。「中間」から浮上したのは数名でしたが、入選・準入選の16名にピックアップされたものもありました。

選んだ作品にモノクロやモノトーン系の作品が多いことに気づいた佐藤さん。

「カラーの作品でピカーッと来るのがあれば迷わず選んだけど、今回はそういうのがないな。もっと“楽しいー”っていう感じのがあるといいけど、みんな落ち着いちゃってますね」

ピックアップ&ドロップを繰り返して、「仮の」16名が決まったのは17時を少し回ったところでした。ここから多少の入れ替えを伴いながら、入選10名と準入選6名に分けていきます。

「前回(川名潤さんの審査)入選の人が何人か入っている。(その人に)勢いが来ているみたいで、これはこれでいいかも」

入選にした人は、今度はページの並び順まで考慮しながら作品点数を絞っていきます。「う〜ん、だんだんいい感じになってきた」

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作品を絞り込み、全てが決まったのはすっかり日が落ちた18時頃。

「いや〜、美しく収まったな! 最初はどうなるかと、決められないんじゃないかと思ったけど、ちゃんとまとまるもんですね」

審査おつかれさまでした。

入選・準入選作品と佐藤さんの講評は2016年1月18日のイラストレーションNo.209に掲載いたします。お楽しみに。

入選▼

●吉村宗浩(兵庫県)●西山寛紀(東京都)●藤井紗和(東京都)●南景太(岐阜県)

●大久保つぐみ(埼玉県)●colimo(北海道)●太田麻衣子(東京都)

●初谷佳名子(東京都)●仲里秀樹(東京都)●山浦のどか(東京都)

準入選▼

●岡田喜之(東京都)●平井利和(東京都)●水野隆(東京都)●井上文香(東京都)

●遠藤理子(北海道)●吉泉ゆう子(神奈川県)

最終選考まで残った人々▼

浅野みどり(埼玉県)鍵元涼、加藤正臣、市川夏希(千葉県)ササキエイコ、浅賀健太郎、山本由実、村上達也、CANOO、ミナミスグル、タカヤママキコ、谷口綾、増島加奈美、牛久保雅美、石川恭子、広瀬美香(東京都)竹原由里、柊有花、高橋亜紗子、おぐまこうき(神奈川県)吉田薫(静岡県)井田享子(三重県)ケント・マエダヴィッチ(兵庫県)石橋謙一(奈良県)とくひらようこ(高知県)沖野愛(愛媛県)ますこひかり(沖縄県)


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