イメージ:第202回 上杉忠弘さんの審査

ザ・チョイスの2017年度がスタート、第202回の審査が2月8日行われました。審査員はイラストレーター上杉忠弘さん。応募者数は320人、作品数は約1,000点。

午後2時、上杉さん玄光社に到着。担当より一通り審査手順の説明を受け、審査開始です。「最初はまだ基準が見えないから、多めに残す感じでいきましょう」と上杉さん。目の前に出されてくる作品を見て「残します」「外します」とジャッジしていきます。言葉の通り、落とす作品より残す作品がやや多い感じです。

作品を見ていくペースは早からず遅からず。

時折、作品を直接手にとって眺めたり、反対に少し離れてみたり、作品を見る距離に変化をつけているのが印象的でした。作品の傾向というのは見えづらいのですが、人物以外のモチーフを描いたものや、ちょっと抽象的な画面の作品がやや多く目につきました。

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全体の1/3を過ぎたあたりから審査ペースが少し上がって、1時間少々ですべての作品を見終えました。全体の半分ちょっとがまだ残っています。「何度か繰り返して絞らないとダメですね」と、休憩を挟まずそのまま2次審査へ。1次審査同様に1人分ずつ順に作品を見せてジャッジしていく形です。

2次審査では、確実に次に残す作品とは別に、残すかどうか迷った作品を「グレーゾーン」として残しました。後でこちらから浮上するものがあるかもしれない「敗者復活枠」です。審査のペースは変わりませんが、先ほどよりは落とされる作品が多くなりました。40分少々で2次審査が終了。

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絵が時代の変化で動いていない気がする

ここで休憩。コーヒーを飲みつつ、上杉さんにここまでの感想などを伺います。

「最初はレベルが分からず、ざっくり絞っていく感じでした。評価のポイントをどこに置くか、難しいですね。アニメ・コミック系の作品は少なくて、青山塾やパレットスクールとか、イラスト教室系の人が多いのかな。技術的にはうまいと感じる一方で、90年〜2000年代にもこういう絵はあったなって。あまり時代的に動いていない気もしました。今はより具体的なイラストレーションが求められる傾向が強いから、抽象的でワケがわからないという絵はなかったけど、どこかヌケが悪い感じがしました」

お話は続きます。「審査にあたって、編集者的な視点で見るのはやめようと思いました。(注文の)枠に器用にはめ込む人がいる一方で、そこから抜け落ちる中にハッとする作品があるんじゃないかって。“いい線引けたなー”みたいな、描いているときの理屈ではないトキメキが見える作品を絵描きの視点で選びたい。自己の内面に入り込んでいく表現も、それはそれで突き抜けちゃえばいいけど、そこがちょっと中途半端。やるならガーっと極限まで突っ走ってほしい」

「今言ったこととはちょっと矛盾するけど…」と前置きして、さらにこんな話をしてくれました。

「大量に見ているとブレてくるのか僕自身にも迷いがあって、“面白いけどそれはイラストレーションなのか”って気になっちゃいますね。ちゃんとイラストレーションになっていることも重要だと思います。イラストレーションはデザインと組み合わさって最終的な着地が決まるので、(デザインとの)出合い次第なところがあって、応募者の方もそこを意識してみてもいいと思う。絵単体では今ひとつでも“使ってみたい”と思わせる何かがあれば可能性はあるので」

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イラストレーションの主流が見えない時代

上杉さんの学生時代、1980年代は公募展ブームでしたが、自身はあまり積極的にコンペに応募しなかったそうです。

「コンペの“傾向”みたいなのが自分には合わない気がしていて。日本グラフィック展に出したことはあるし、チョイスにも2回ぐらい応募したけど、それよりは雑誌などの依頼を受けてカッコいい絵を描くことに興味がありました。当初は今よりシンプルなスタイル画寄りのタッチで、誌面の一要素として描く意識が強かったですね」

女性誌を中心に、雑誌の表紙や挿絵を数多く手がけてきた上杉さんですが、近年は海外の仕事が増え、アニメーションなどジャンルも広がっています。そこには表現に対する意識の変化がありました。

「同じテーマやモチーフを繰り返し描かされることがだんだんツラくなってきたんですね。新しいことをさせてもらえない。今でも依頼が来ると、注文通りのものとは別に、捻った表現や安全パイではないものを一緒に出してみるんですけど、なかなか通らないですね。大きな仕事ほど無難な方へ行きがちです。仕事ではいろいろ注文をつけられることが多くて、それに応えながらきちんと着地できるスキルがプロには必要だけど、依頼通りに描くだけになると面白くない」

女性誌で好まれる明快で平面的な表現から、光や陰影を意識した空間性のある画風へ、徐々にシフト。雑誌での汎用性は下がったものの、そこからネットを通じて海外から仕事のオファーが来るようになり、特に「コララインとボタンの魔女」「ベイマックス」といったアニメーション作品の背景デザインやコンセプトアートを手がけたことで世界的にその名が知られるようになりました。上杉さんによれば、アメリカのアニメ作品はコンセプト段階では(アニメ絵的ではない)伝統的なイラストレーションの手法で描かれることが多いそうで、カーター・グッドリッチやルー・ロマノのように、アニメーションスタジオの仕事をする傍ら老舗雑誌『NEWYORKER』の表紙を描く人もいます。

日本ではオーソドックススタイルのイラストレーションに元気がなく、ジャンルとして衰退している気がする、と上杉さん。技術的な意味で海外でも通用するレベルを目指す人が少ないのではと指摘しています。

「かつての辰巳四郎さんのような、重厚な絵が好まれなくなって、質量のない、あたりさわりのない絵が増えてきた気がします。一方で、80年代に流行ったイラスト表現で、当時はオリジナルだと思っていたものが実は海外にオリジンがあったことが後で分かったりして、今は何が主流か見えなくなっていますよね」

最終段階はスムーズに決まる

審査再開。もうちょっと絞り込みたいという上杉さんのご希望で、もう一度作品を順番に見て「残す」「外す」「グレーゾーン」に分類。これまでよりもペースは上がり、10分ほどで見終えて半分以下にまで絞られました。

残った作品を全て机に並べます。数えてみると25、6人分にまで絞られていました。いよいよここから最終審査です。まずは入選10名を先に決めたいとのことで、候補になる作品を手にとってピックアップしていきます。5〜6人あたりまでは割合スムーズに選びましたが、そこからはやや慎重に、丹念に作品を眺めます。

少し多めに候補をピックアップして、そこから10人に絞り込む形にしました。

「この人はメルヘンなのか、悪意があるのか、悩みますね」

「絵自体はすごくいいんだけど、いろんな人(の影響)が透けて見えるな」

最後の数人は少し時間をかけて絞り、入選10名が決定しました。この段階で落とされた作品は準入選となり、そこに数人分を加えて準入選6名も確定。グレーゾーンからの敗者復活は今回はありませんでした。入選と準入選の作品の絞り込みを行い、開始から3時間半ほどで審査が終了しました。

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審査結果は以下のとおりです。

入選▼

●杉野陽平(神奈川県)●WONG FLORENCE(東京都)●山田だり(東京都)

●kalo(愛知県)●藤本紘希(大阪府)●須崎喜也(東京都)

●楓真知子(東京都)●光内亘利(大阪府)●遠藤理子(北海道)

●ホウジュト(東京都)

準入選▼

●藤田果菜実(福岡県)●土田明彦(神奈川県)●春日井さゆり(東京都)

●玉村聡之(大阪府)●松岡美穂(京都府)●とつかちえ(東京都)

最終選考まで残った人々▼

しまだたかひろ(滋賀県)、島川雅至、渡辺郁子、高柳明、庄野紘子(東京都)、藤本乾二(埼玉県)、

ミッキーオーソラン(栃木県)、栁本一英(静岡県)、長谷川千浩(兵庫県)、竜川エナ(三重県)

入選作品と上杉忠弘さんの審査評は、4月18日発売のイラストレーションNo.214に掲載いたします。お楽しみに!


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